希薄磁性半導体
(Ga,Mn)As

1.希薄磁性半導体とは?

           ──磁性を持った半導体

 希薄磁性半導体は半導体中に磁性を持つ不純物原子(Fe, Co, Mn etc.)を混入した物質です(下図)。半導体と磁性体の特性が互いに関連した特異な現象が観測されています。

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(Ga,Mn)Asの模式図。Mn(緑)がGaAsのIII族サイトのGa(青)を置換する。

 これまで、トランジスタやICに代表される半導体デバイスは”電子””正孔”といったキャリアの”電荷”を利用することで成功してきました。しかし、他にこれらのキャリアは”スピン”と呼ばれるものをもっています。このスピンも利用することができれば半導体デバイスの分野を広く開拓することができます。希薄磁性半導体はこのような可能性を持つ材料です。

 

2.V-X族希薄磁性半導体
(Ga,Mn)As

 私たちが研究している(Ga,Mn)AsはIII-V族希薄磁性半導体と呼ばれる材料系の一つで、1995年に結晶成長に成功しました。最高でMnが7.1%混入したものが得られています。この物質の大きな特徴としては現在化合物半導体として最も活用されているGaAsベースであるということ、低温(最高110K以下、セ氏でいえば-163℃以下)で強磁性体になるということです。以下に私たちがこれまでに測定した(Ga,Mn)Asの特性について示します。

 

2.1.磁気的な性質について

 物質がどのような磁性を持つかということを評価する上で、最も一般的な方法は磁化測定です。これは外から、例えば磁石などによって生じた磁界によって、試料がどのように、どの程度磁化するかを測ります。下に示す図は5K(-268℃)における(Ga,Mn)Asの磁化測定の結果です。図から(Ga,Mn)Asは低温で強磁性体であることが確認されます。

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測定温度T=5Kにおいての(Ga,Mn)Asの磁化測定の結果(Mn濃度3.5%)。矩形のヒステリシスが観測される。

 

2.2.電気的な性質について

 一般に半導体は室温から温度を下げるにつれ自由電子が原子に拘束されるため、その電気抵抗は大きくなることが知られています。(Ga,Mn)Asにおいても室温である300K(27℃)付近から温度を低くすると抵抗が徐々に大きくなります。しかしMnを3-6%程度混入した場合には、ある温度で抵抗がピークとなりその後温度の減少につれ、抵抗が減少する様子が観測されます(下図)。このピークは(Ga,Mn)Asが強磁性体に変わる温度の位置であることから磁性が関与した現象であると考えられます。

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(Ga,Mn)Asの抵抗の温度変化。
抵抗が0Kに近づくにつれて無限大に発散する場合と(緑)有限の値に収束する場合(赤)に分けられる。

 また、(Ga,Mn)Asに磁場を印加した場合、電気抵抗が減少する現象が観測されます。これは磁場を印加するにつれて(Ga,Mn)As中の磁性原子のスピンが一方向にそろうため、キャリアが散乱されにくくなると考えられています。

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外部から磁場を印加したときの(Ga,Mn)Asの電気抵抗(Mn濃度5.3%)。
印加する磁場が大きくなるにつれて抵抗が小さくなる様子が見られる。

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