大野研究室では、(In,Mn)Asをチャネルにもつ電界効果型トランジスタ構造(FET)を作成し、物質の強磁性-常磁性を制御することに世界で初めて成功した。ゲートバイアス±125Vによる転移温度の変化は約±1Kであり、温度によらず可逆的に強磁性-常磁性スイッチが可能な温度領域が存在する。これらの実験結果は平均場近似を用いた理論計算でほぼ説明できる。 強磁性半導体の強磁性状態は、光という外部因子で操ることができることはすでに明らかになっていたが、強磁性半導体FETの研究により、電界という新たな自由度が加わった。この技術のみでも磁気メモリ(MRAM)などへの応用が考えられるが、今後はこのような新しい技術との融合により、まったく新しいデバイスを生み出す可能性が大いに期待できる。 |
(In,Mn)As FET構造における電界制御強磁性の概念図 | |
ゲート電圧Vgがマイナスのときは、強磁性半導体のホール濃度が大きくなり強磁性(Ferromagnetic)となります。逆に、ゲート電圧Vgがプラスのときは常磁性(Paramagnetic)となります。下側のグラフにおいて、B は外部磁場、M は磁化です。強磁性のときは図のようなヒステリシスループと呼ばれるものが観測されます。
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(In,Mn)As FET構造の磁気特性 | |
異なるゲート電圧時のホール抵抗(RHall)と磁場(B)の関係
22.5Kにおいて、ゲート電圧が+125V、0V、-125Vのときのホール抵抗の磁場依存性の測定結果です。プラスのゲート電圧によりキャリヤを減らすことで(In,Mn)Asの強磁性的秩序が消え常磁性になり、マイナスのゲート電圧により強磁性的秩序がより強く誘起されます。強磁性的秩序が強くなるにつれクリアーなヒステリシスループが観測されます。 | |
異なるゲート電圧時のホール抵抗(RHall)の温度依存性
ホール抵抗(RHall)が0となるときの、ゲート電圧が+125Vと-125Vの間の範囲が、電界により強磁性-常磁性状態間のスイッチが可能な領域となります。転移温度の変化量はだいたい25.5Kから27.5Kまでの約2Kとなります。よって、ゲート電圧が0Vの状態から転移温度を約±1K変化させることができます。 |
ホール抵抗の時間依存性。挿入図はゲート電界がそれぞれ-1.5MV/cm(赤)、0V/cm(黒)の時のホール抵抗の磁場依存性。 (In,Mn)As FET構造においては、マイナスのゲート電界でホール濃度を増加させると、ゲート電界がない場合に比べて保磁力が大きくなります(挿入図参照)。まずマイナスのゲート電界を印加した状態でプラスの方向の磁界を印加して磁化の方向をそろえ、保磁力より小さな磁場(-0.2 mT)を印加した状態を用意します(t = 0 s)。この状態で外部磁界は保磁力より小さいため磁化は反転しません。t = 25 sにゲート電界をゼロにすると保磁力は小さくなるため、印加しておいた外部磁界によって磁化が反転します(ホール抵抗はプラスからマイナスに変化します)。このようにゲート電界を利用することで、磁化反転に必要な磁界をおよそ1/2にすることができます。