(Ga,Mn)As MTJにおけるスピン注入磁化反転


(Ga,Mn)AsベースMTJ構造のトンネル磁気抵抗効果(TMR)1-3,5,7)
トンネル磁気抵抗効果(Tunnel magnetoresistance : TMR)とは、絶縁薄膜を二層の強磁性薄膜で挟んだ磁気トンネル接合(Magnetic tunnel junction : MTJ)にバイアスを印加し、電子がトンネルすることにより観測される現象です。二層の強磁性層の磁化方向が互いに平行に揃っているときは接合抵抗が低くく、反平行のときは高くなります。強磁性体では伝導に寄与する電子にスピン偏極があり、トンネル先のもう一方の強磁性層の空きの状態にも同様に偏極があります。反平行配列時には偏極の向きが互いに逆方向になるため、平行時に比べトンネル電流が小さくなります。従ってスピンの偏極率Pが大きいほど平行・反平行時のトンネル電流、つまり接合抵抗の差は大きくなります。(Ga,Mn)AsではPが高いことが理論的に予測されおり、実際77%のPに相当する290%もの抵抗変化を観測しました。

図1トンネル磁気抵抗効果(TMR)の概念図。磁性層1と2の磁化の配列が平行のときは抵抗が低く(反平行時と印加電圧を同じにした際に電流が流れやすい)、反平行のときは抵抗が高い。


試料構造
膜厚組成
20 nm(Ga1-xMnx)Asx = 0.074
6 nmGaAs
20 nm(Ga1-xMnx)Asx = 0.044
50 nmGaAs:Be5 x 1018 cm-3
p+ GaAs sub.
図2GaAsを障壁層とする(Ga,Mn)As MTJの試料構造。

図2図3の構造で観測された磁気抵抗曲線。上下の磁化の平行・反平行配列時の抵抗比は最大で290%である。






(Ga,Mn)As磁性トンネル接合におけるスピン注入磁化反転4,6,7)
上記のような磁性薄膜で非磁性薄膜をサンドイッチした構造においては、印加した高密度電流の向きによって磁化の配列(平行・反平行)を制御することができます。これは伝導電子が一方の磁性層から他方の磁性層を通過して流れるとき、スピン角運動量を他方の磁性層へ受け渡す(スピントランスファー効果)によって引き起こされます(図3)。この効果は他方の磁性層にトルクを与えるため、磁化の向きが反転します。(Ga,Mn)As/GaAs/(Ga,Mn)As磁性トンネル接合においては、この閾値を与える電流密度が4 x 104 - 2 x 105程度と強磁性金属を利用した場合より2-3桁も小さいことが明らかになっています。


図4スピントランスファー効果の概念図。伝導電子のスピンの向きが変化するとき、その角運動量は保存されなくてはならないため、磁性層にトルクを及ぼす。


図5(Ga,Mn)As/GaAs/(Ga,Mn)As磁性トンネル接合におけるスピン注入磁化反転。1.5 x 0.5 μm2サイズの素子に横軸の電流をパルス(1 ms)で印加し、その後10 mVの低電圧で抵抗値(縦軸)を測定した結果。電流の向きにより低抵抗・高抵抗状態、即ち磁化の平行・反平行状態を制御できていることが分かる。





Publications
  1. D. Chiba, N. Akiba, F. Matsukura, Y. Ohno, and H. Ohno, "Magnetoresistance effect and interlayer coupling of (Ga, Mn)As trilayer structures", Applied Physics Letters,Vol. 77, Issue 12, pp. 1873-1875, 18 September, 2000.
  2. D. Chiba, N. Akiba, F. Matsukura, Y. Ohno and H. Ohno,"Properties of (Ga,Mn)As/(Al,Ga)As/(Ga,Mn)As magnetic trilayer structures", Physica E, Vol. 10, Issues 1-3, pp. 278-282, May 2001.
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  7. D. Chiba, F. Matsukura, and H. Ohno, "Electrical Magnetization Reversal in Ferromagnetic III-V Semiconductors", Journal of Physics D: Applied Physics, Vol. 39, pp. R215(1)-(11), Jun. 2006.