強磁性金属を用いたナノスピンメモリ


1.MgOを障壁に用いたトンネル磁気抵抗素子

 

極薄の絶縁層を2つの磁性薄膜ではさみ(図1-1(a))、両端に電圧を印加すると、量子力学的トンネル効果によりスピンを持った電子が絶縁層をトンネルすることができます。磁性膜のスピン(磁化)の方向が平行と反平行のときに、素子の電気抵抗が変化し、これをトンネル磁気抵抗(TMR)効果といいます(図1-1(b))。 低抵抗状態、高抵抗状態をそれぞれ0と1に対応させることでTMR素子をメモリへ応用することができます。 TMR素子の性能指標はTMR比(=(Rap-Rp)/ Rp, (Rp:平行状態の抵抗値, Rap:反平行状態の抵抗値))として定義されており、メモリ応用に向けて、高速性の観点から高いTMR比(>100%)が必要となります。 MgOを障壁に用いることで非常に高いTMR比が得られることが理論的に予測されており、我々のグループでは実際に世界最高値の604%というTMR比を実現しています(図1-2)




 


2.スピン注入磁化反転

 

磁化を反転させる方法として外部磁場印加方式(図2(a))があるが、この方式は微細化に伴う消費電力の増大が懸念されるため、現在ではスピン注入磁化反転方式(図2(b))が広く研究されている。スピン注入磁化反転は参照層からスピン偏極して流れる伝導電子と記録層の磁化の間の角運動量の授受により、記録層の磁化にトルクが働き磁化反転が生じる現象で、TMR素子の接合面積が小さくなるほど,書込み電流を小さくできるスケーラブルな書込み方式である。



 


3.実用化へ向けて〜垂直TMR素子〜

 

TMR素子は、高速動作・事実上無限回の書き換えが可能であり、また不揮発であるため、静的消費電力の大幅削減へ向けて期待されています。逆に、これらを満足することが求められますので、上記したように高速動作の観点から高いTMR比、不揮発性(後述)の実現に加えて、低い書き込み電流、高温熱処理耐性などが求められます。 不揮発性であることの指標として熱安定性Δ(∝KeffV (Keff:実効磁気異方性エネルギー密度, V:体積))があります。TMR素子を不揮発性メモリとし応用するにはΔを高く(>60)する必要がありますが、Δは体積に比例しているので微細化に伴うΔの低下が懸念されています。そこで近年ではKeffの大きい材料として、磁化の向きが膜面面内に対して垂直方向である磁性体が注目され、これをTMR素子に応用した垂直TMR素子(図3-1)の研究が盛んに行われています。 我々のグループではMgO/CoFeBという単純な組み合わせで垂直TMR素子を作製出来ること(図3-2)を見出し、上述した課題を高いレベルで同時に解決する垂直TMR素子の作製に成功しています。また最近ではMgO/CoFeB/Ta/CoFeB/MgOという組み合わせで熱安定性をさらに向上させることに成功しています。




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