強磁性半導体FET




はじめに


◆FETとは?

 FETは"field-effect transistor"の略で、電界効果トランジスタのことです。FET構造は、半導体表面に絶縁膜を介して電極をつけたものです。この電極をゲートといい、ゲートに電圧を加えると、半導体表面にキャリヤが静電的に誘導されます。ゲート電極にプラスの電圧をかけると、半導体表面の電子濃度が大きくなり、マイナスに帯電します。逆に、マイナスの電圧をかけると、半導体表面のホール濃度が大きくなり、プラスに帯電します。


強磁性体半導体FET

強磁性体は、熱という外部因子で強磁性と常磁性が変化します。
大野研究室では、III−V族強磁性半導体である(In,Mn)AsをチャネルにもつFETにおいて、強磁性と常磁性を電界により制御することに世界で初めて成功しました[1]。

現在までに、キュリー温度(強磁性転移温度)、磁化の大きさ、磁化ベクトルの方向など、様々な磁気特性が電界により制御できることが明らかになっています。更に、(Ga,Mn)As、(Ga,Mn)Sbと、さまざまな、III−V族強磁性半導体において、磁気特性を電界で制御することに成功しています。これらの実験結果は平均場近似を用いた理論計算でほぼ説明できることが分かっています。





FET構造における電界制御強磁性の概念図

強磁性半導体FETの構造は、GaAs基板上にスペーサーをはさんで強磁性半導体となるガリウムマンガンヒ素(Ga,Mn)Asを結晶成長します。(Ga,Mn)AsMnがホールを放出するp型半導体です。ホール濃度が大きいほど、転移温度は高くなります。(Ga,Mn)Asの上に絶縁膜をはさんでゲートをつけます。このFET構造で低温においては、ゲートにマイナスの電圧を加えると、(Ga,Mn)Asのホール濃度が大きくなり強磁性となり、プラスの電圧を加えると、(Ga,Mn)Asのホール濃度が小さくなり常磁性となります。


強磁性半導体FETの作製と特性評価


作成手順
場所

(a)強磁性半導体の結晶成長

 低温分子線エピタキシ法という方法を用いて、
基板上に強磁性半導体を成長します。
スーパークリーン
ルーム

(b)FETプロセス
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図1:プロセス工程。


説明: ホールバー

図2:作製した素子の写真。


(c)配線、評価(磁化測定、輸送測定)

説明: \\192.168.10.2\ohnohp2\japanese\forjunior2012\theme-files\image4.jpg
図3:測定の模式図。
測定は、ホールバーのソース-ドレイン間(図2中の左右方向)に電流を流し、面直に磁場を加えたときのホール抵抗(図2中の上下方向)とシート抵抗(面抵抗)の磁場依存性を測定します。その際、ゲート(G)にプラスとマイナスの電圧を加えてキャリヤ濃度を変化させた場合の特性も測定します。

実験室



(Ga,Mn)As電界効果素子の磁気特性[2]

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図4:(Ga,Mn)As電界効果素子における
ホール抵抗の外部磁場依存性[2]。


強磁性⇔常磁性のスイッチ
異なるゲート電圧時のホール抵抗と外部磁場の関係を示したものが左の図です。赤線はプラス電界印加時、青線がマイナス電界印加時のグラフで、それぞれキャリア(正孔)の減少と増加に相当します。

上のグラフはT=35 Kにおける測定です。プラスの電界により、保磁力が小さく、マイナスの電界により保磁力が大きくなっている事が分かります。

下は強磁性転移温度付近であるT=50 Kにおける測定です。プラスのゲート電界(赤線)により(Ga,Mn)Asの強磁性的秩序が消え常磁性になり、ヒステリシスが消えている事が分かります。マイナスのゲート電界により、強磁性的秩序が強く誘起されます。強磁性的秩序が強くなるにつれクリアーなヒステリシスループが観測されます。




(Ga,Mn)As電界効果の直接測定[3]


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図5:(Ga,Mn)Asにおける磁気特性の
電界変調の直接観測[3]

自発磁化の変調
左の図は、磁化の温度依存性を引加するゲート電界を変えて測定したものです。印加するゲート電界の値によって、磁化の大きさが変化していることが分かります。これは、電界によっ絶縁膜/強磁性半導体界面の空乏層幅が変化することにより生じていると考えられます。その変化の大きさは平均場近似を用いた理論計算で説明できることが分かっています。



●磁化方向の電界制御[4]

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説明: image9.jpg


図6:(Ga,Mn)As
電界効果素子における
磁化方向の制御[4]

磁気異方性の変調
強磁性体には、磁化の向きやすさが方向により異なる「磁気異方性」が存在します。ゲート電界の引加により、磁気異方性を変えることが出来ます。
我々のグループでは(Ga,Mn)As面内の磁化方向を約10度傾けることに成功しました。




●今後の展望


 まだまだ謎の多い強磁性半導体の物性を解明するため、また半導体の特徴を存分に活かした強磁性金属では実現できないデバイスに発展していくことを期待して、日々研究に取り組んでいます。

今後の強磁性半導体の研究目標として
・室温動作に向けてキュリー温度を上昇させる
・(Ga,Mn)Sbでの電界効果を直接測定する
・他の物理現象との融合 を考えています。



●参考文献

[1]H. Ohno, D. Chiba, F. Matsukura, T. Omiya, E. Abe, T. Dietl, Y. Ohno and K. Ohtani, "Electric-field control of ferromagnetism," Nature, Vol. 408, No. 6815, pp. 944 - 946, 21/28 Dec., 2000.
[2]D. Chiba, F. Matsukura, and H. Ohno, "Electric-field Control of Ferromagnetism in (Ga,Mn)As", Applied Physics Letters, 89, 162505 (2006).
[3]M. Sawicki, D. Chiba, A. Korbecka, Y. Nishitani, J. A. Majewski, F. Matsukura, T. Dietl, and H. Ohno, "Experimental probing of the interplay between ferromagnetism and localization in (Ga, Mn)As", Nature Physics 6, 22-25 (2010).
[4]D. Chiba, M. Sawicki, Y. Nishitani, Y. Nakatani, F. Matsukura, and H. Ohno, "Magnetization vector manipulation by electric fields", Nature, 455, 515-518 (2008).


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