強磁性半導体



●はじめに


◆強磁性とは?
 強磁性は、わかりやすく言えば磁石のことです。磁場を作用していないときでも磁気モーメントをもつことを自発磁化といい、自発磁化を持つ物質を強磁性体といいます。自発磁化は、電子の自転によるスピンの向きが整列している状態です。鉄Feなどの物質は強磁性体です。

◆半導体とは?
 半導体にはダイヤモンド構造をもつシリコン(Si)や、V族とX族の元素からなる閃亜鉛鉱構造を持つガリウムヒ素(GsAs)をはじめ、いろいろな種類があります。半導体は共有結合で結晶を作っており、結合に使われている電子を放出すると、電子の抜け落ちたところにホール(正孔)ができ、これらの電子とホールが電気伝導に寄与します。電気伝導に寄与している電子とホールを電気伝導担うという意味で「キャリヤ」と呼びます。電子の多い半導体をn型半導体」、ホールの多い半導体をp型半導体」といいます。

強磁性半導体は、この半導体と強磁性の両方の性質をもつ材料です。
通常の強磁性体や半導体では見られないユニークな特性が観測されています。



●III-V属強磁性半導体 (Ga,Mn)As


 私たちが研究している(Ga,Mn)AsはIII-V族強磁性半導体と呼ばれる材料系の一つで、1995年に結晶成長に成功しました。母体となる半導体GaAsに磁性原子Mnをドープして作成します。下図のように、ドープしたMnはGa位置に置換されます。置換したMnはU価の原子で、GaはV価の原子なので、正孔を1つ放出します。この正孔と、Mnの持つ電子の相互作用により、強磁性が発現します。
 これまで、トランジスタやICに代表される半導体デバイスはキャリアの“電荷”を利用することで成功してきました。しかし、キャリアは電荷に加え“スピンと呼ばれるものをもっています。スピンは、一つ一つの電子のもつ磁石の性質です。このスピンも利用することができれば、今までに実現し得なかった画期的なデバイスを作ることが可能で、半導体デバイスの分野を広く開拓することができます。強磁性半導体は未知の可能性を持つ材料です。

説明: GaMnAs.jpg (90694 バイト)
図1:(Ga,Mn)Asの模式図。Mn(緑)Ga(オレンジ)を置換している。




●作製方法


 (Ga,Mn)Asは、分子線エピタキシ法という方法を用いて作製します。
分子線エピタキシ法とは、超高真空状態のチャンバ中で基板を加熱しておき、成長させたい材料を分子線として基板上に供給することにより結晶成長を行う方法です。
 通常の結晶成長温度においてパーセントオーダーの磁性原素をドーピングしようとすると、例えば(Ga,Mn)Asにおいては、Mn原子のGaAsに対する固溶度の低さからMnの偏析が見られたり、熱的に安定なMnAsなどの二次層が析出してしまいます。そこで、通常よりも基板温度を下げて、あえて非平衡状態で結晶成長を行うことにより、Mnをパーセントオーダーでドープすることが出来ます。これを、低温分子線エピタキシ法と言います。

説明: MBE.jpg
図2:MBE装置の模式図。



●磁気的な性質について[1,2]


 物質がどのような磁性を持つかということを評価する上で、最も一般的な方法は磁化測定です。これは外から、例えば磁石などによって生じた磁界によって、試料がどのように、どの程度磁化するかを測ります。下に示す図は5(-268)における(Ga,Mn)Asの磁化測定の結果です。

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図3:T =5 Kにおいての(Ga,Mn)Asの磁化測定の結果(Mn濃度3.5%)。
矩形のヒステリシスが観測される。右下の図はゼロ磁界における磁化の温度依存性。




●電気的な性質について[1,2]


 一般に半導体は室温から温度を下げるにつれ自由電子が原子に拘束されるため、その電気抵抗は大きくなることが知られています。(Ga,Mn)Asにおいても室温である300K27℃)付近から温度を低くすると抵抗が徐々に大きくなります。しかしMn3〜6%程度混入した場合には、ある温度で抵抗がピークとなりその後温度の減少につれ、抵抗が減少する様子が観測されます(下図)。このピークは(Ga,Mn)Asが強磁性体に変わる温度の位置であることから磁性が関与した現象であると考えられます。

説明: romini.png (44567 バイト)

図4:シート抵抗(面抵抗)の温度依存性。[1,2]


 (Ga,Mn)Asに磁場を印加した場合、電気抵抗が減少する現象が観測されます。磁場のを印加により(Ga,Mn)As中の磁性原子のスピンが一方向に揃うため、キャリアが散乱されにくく為だと考えられています。

説明: magnetoresistancemini.png

図5:外部から磁場を印加したときの(Ga,Mn)Asの電気抵抗(Mn濃度5.3%)。印加する磁場が大きくなるにつれて抵抗が小さくなる様子が見られる。[1,2]



●参考文献(学内アクセスの場合論文閲覧が可能です)

[1]H. Ohno, "Properties of ferromagnetic III-V semiconductors," Journal of Magnetism and Magnetic Materials, vol. 200, pp. 110-129, Oct., 1999
[2]F. Matsukura, H. Ohno, A. Shen and Y. Sugawara, "Transport properties and origin of ferromagnetism in (Ga,Mn)As," Physical Review B, 57, vol. 4, pp. R2037 - R2040, 15 Jan., 1998.

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